第16回熊本ペインクリニック懇話会 平成12年3月3日(金)


  第16回熊本ペインクリニック懇話会 平成12年3月3日(金)
                            九州記念病院

1、熊本ペインクリニック懇話会ホームページのご提案
九州記念病院麻酔科、整形外科   東 兼充、岡山洋二
アドレスは
 http://www5a.biglobe.ne.jp/~kkh-home/pain/painkonwa0.htm

です。
(このあと行われた世話人会で熊本ペインクリニック懇話会の正式ホームページとして承認されました。


2、高齢者の骨粗石症の痛みの治療について
熊本地域医療センター麻酔科高群博之、池田耕一、成松紀子、田上正
症例86歳女性

既往歴
1989年頃より慶徳加来病院通院フォロウ中(高血圧、動脈硬化、不整脈、大腸癌術後、慢性胃炎、気管支喘息、骨粗石症、腰痛症、慢性甲状腺炎) 1992年当センターにて横行結腸癌にて切除術施行。1999年9月頃より腰痛悪化、NSAID内服にて潰瘍出血を来すも腰痛軽快した。
 最近、老人性痴呆症状出現するも、週3回のデイケアに行かれる。介護保険要介護認定:介護度2
現病歴及ぴ入院後経過
2000年2月9日再度腰痛が悪化し、2月10日当センター救急外来受診した。体動時痛激痛であり腰部Xp上にL1椎体圧迫骨折(以前から?)がみられたが、感覚麻庫は無かった。
 外来にて膜外チュービングを施行しチューブの先端をL1に位置させた。
 簡易型持続注入器及び間欠的注入にて1%リドカインを持続注入及び間欠的注入を行い、痴呆の予防も兼ねて外来にて電気針治療を行った。出血性潰瘍の既往が有るため、内服鎮痛薬は使用しなかった。痴呆の為か硬膜外チュービングを自己抜去する事もあったが、10日程経過すると、痛みが急に軽減し移動可能一歩行可能とな。た。徐々に硬膜外への1%リドカインの持続流量、回数を減らすことにより痛みの軽減を計り、2月23日硬膜外チューブを抜去し得た。硬膜外チュービングの為か一時尿閉を生じたが問題なく留置抜去できた。また骨折予防のためにエルシトニン20単位の筋注を週1回行った。以上の加療にて2月26日退院の運びとなった。
検査所見
上部内視鏡:胃十二指腸潰瘍癩痕、萎縮性胃炎
骨密度:年齢相当111%(成人若年者比53%)
尿デオキシピリジリノン(骨吸収マーカー):14.2(2.8〜7.6)
血清オステオカルシン(骨形成マーカー):7.2(3.1〜12.7)

骨粗鬆症による症状:骨の粗毒化自体は無症状と考えられるが、概念上、次のような症状が起こり得る。
1)骨梁の骨折に由来する痔痛。急性の高度の痔痛をきたすことがあるし(硬膜外ブロック)、無症状に経過することもある。
2)脊椎の喫状化、扁平化など変形による椎間関節、傍脊柱靭帯、傍脊柱筋などに対する負荷の変化、過剰に由来する痔痛。同一姿勢の保持や運動による落痛、重い感じなどが多い。(椎間関節ブロック)
1)脊柱変形に起因する馬尾神経、神経根の庫害による癖痛や麻庫症状。いわゆる坐骨神経痛などの下肢痛、下肢のしびれ、脱力感などがある(神経根ブロック)

薬物療法:60歳以上の高齢者では副作用発現率が高い(86歳ではなおさら).
神経ブロック:鎮痛を得るための最低濃度、最低量の局所麻酔薬の使用
その他の療法:経皮的電気刺激療法、光線療法
他部門への相談・紹介:理学療法、手術、精神的治療法
骨粗構症治旅薬は原則として1剤で開始(ガイドラインより)
治療看護:寝たきりを防止することがの基本では?安静も大事だが、激痛があるなら積極的な神経ブロックを用い痛みを除去し、種々の治療を併せて痔痛を軽減することがADLを上昇させQOLの向上になるのでは


ショートレクチャー「神経根ブロック療法」
                   九州記念病院 院長 前川清継 先生
神経根ブロックの適応
1.神経根性疼痛が主訴で硬膜外ブロックを含む他の保存療法が無効な症例、あるいは硬膜外ブロックなどの施行が出来ない症例
2.障害レベルが複数存在の場合の責任神経根の決定が困難な症例
3.造影を行うことで形態学的診断が必要なとき
4.全身的な条件や患者の希望により手術療法が不可能で他の治療手技を選択せざるを得ない症例

神経根ブロックの実施法
1.実施に必要な器具、設備
 ・ 7〜10pのブロック針 ・消毒済み手袋
 ・ テレビ透視台
 ・ 造影剤 
2.術前処置
 ・ 特別な処置は必要ない
・ ヨード過敏などアレルギー体質をチェックする
3.実施手技
 A .頸神経根ブロック
   a.側法侵入法
   b.前方侵入法
 B.腰、仙骨神経根ブロック
   a.第1〜5腰神経根ブロック
   b.第1仙骨神経根ブロック




3、肋間神経プロヅクの長期効果について諸賢のご教示を乞う
熊本リハビリテーション病院 伊佐二久
最近肋間神経痛の3症例に肋間神経ブロックを行い、1回で長期効果を
認めた。
そのメカニズムについては.
1.血管の拡張によるischemic painの除去
2.炎症の軽減
3.局所麻酔薬による肋間筋等の必縮が緩解
4.その他
以上による悪循環のブロックにより長期効果が得られたと考えられるが、わずか1回のみのブロックで劇的な鎮痛効果を得ているので、これだけではナットク出来ないと言うのが正直な感想である.諸賢のご教授を頂きたい。

症例1:85歳、男、胸椎圧迫骨折、右肋間神経痛
老健施設に入所中、上記疾患でペインクリニックを受診。諸検査で異常なし。右第10肋間に圧痛があり1%リドカイン5m1で肋間神経ブロックを施行、その後全く痛みを訴えていない。

症例2:81歳、女、脳梗塞、片麻痘、左肋間神経痛で受診。1%リドカインでブロック。その後痛みなし。

症例3:71歳、女、慢性呼吸不全、心木全、頚椎症、骨粗纏症。7歳膿胸で手術、第9肋間に胸腔ドレーンの痕があり、痔痛が持続し主治医に注射を頼んでも、肺が近いから危険とのことで注射してもらえないと訴える.1%リドカイン、オルガドロンで肋間神経プロツク後全く痛みを訴えない。

森岡 亨先生のコメント:局所麻酔には、神経に対して不可逆性の作用もあるのではないか?




4、ニューロパシックベインに対するケタミン少量点滴療法
熊本赤十字病院麻酔科  定永道明
 症例1)67歳男性
 PHN
 右内頚動脈閉塞・左内頚動脈狭窄症で脳外科入院中のH.11.4/21、右頚部(C2領域)のヘルペスに罹患、皮膚科にて加療するも落痛次第に激しくなり、5/12麻酔科に紹介された。頚部硬膜外チュービングを行い、0.25/マーカイン6mlを1日7回注入した。トリブタノールも3T3xで投与した。5/20にはSTA-MCAバイパス術が施行された。
 6/29には痛み10→3となったので注入を1日5回に減らしたが、服が触れるとヒリヒリする蒲みがその後も残存した。7/4ケタミン5rを静注したところフワフワする感じとともに一時的に無痛となった。その日は蒲みが軽く、しかも痛む範囲も狭くなった。翌日もケタミン5r静注、さらに痛みが軽くなった。メジコン散45r3xで投与開始し、7/7には硬膜外注入は不要となった。7/15に退院できた。
 
 症例2)56歳男性
 開胸術後痔痛症候群
 H.11.8/13右肺癌の診断で開胸術を受けるも縦隔浸潤のため試験開胸に終わる。(以後radiation+化学療法施行)。9/14右背部の鈍蒲と開胸術後の創周辺の落痛のため麻酔科に紹介された。Th6領域に一致して右側胸部から前胸部にかけて針で刺すような痛みと知覚鈍麻が見られた。これまでにペン・アタの静注、レペタン坐薬などが頻回に使われていた。
 胸部硬膜外ブロック5回で背部の鈍痛は消失したが、Th6領域の痛みは肋間神経ブロック数回くり返してもあまり変化がなかった。9/16ケタミン10mg静注したところ1時間痛みが全く消失した。その日よりケタミン25mg+生食100ccを2時間かけての点滴を3日間、30rに増量してさらに7日間行った。radiationによる胃腸障害か、嘔気のため一時中止した。これは六君子湯で改善した。痛みは残存したが範囲が狭くなり、鎮痛剤の使用は減少した。11/18また針で刺される感じが強くなってきたため、ケタミン25r+生食100ccの点滴を5日間再開した。知覚鈍麻はそのままだが痛みはほとんど消失した。その後はボルタレン坐薬またはロキソニンのみでで対処可能となった。

症例 3)73歳女性
 PHN
H.1111/20頃右三叉神経第1枝のヘルペスに罹患、近医で加療するもPHNとなり当院麻酔科紹介された。入院とし、頚部硬膜外チュービングし、1キシロカイン5ml、1日5〜6回注入を23日間。SGBを1日1回計25回。眼窩上神経ブロックを計4〜5回併用した同時に内服トリブタノール、デパス、五苓散を投与した。神経ブロックの効果はブロック直後のわずかな時間のみで12月になっても針で刺されるような痛みとミミズのはうような感じが取れなかった。(VAS30-60)そこでケタミン20冊g+生食100ccを2時間かけての点滴を3日間、30rに増量して13日間続けた。次第に痛みの範囲が狭くなり神経ブロックも不要となった。メジコン散90r3xを追加投与して退院できた。


5、小児瓶径ヘルニアに対する術後鎮痛の検討
熊本市民病院麻酔科
尾方信也、満瀬哲郎、橋口清明、増田和之、城嘉孝、赤坂威史
腸骨鼠径◆腸骨下腹神経ブロック'
Ilioinguinal-andiliohypogastric-nerve-block
術前・術後の鎮痛を精巣固定・承径ヘルニア修復にもたらす。両神経ともL1由来で陰嚢・陰茎根部・承径靭帯上の皮膚知覚を司る。小児における精巣固定術において仙骨硬膜外麻酔と同じ効果を示す。精巣組織や腹膜の牽引(もっと上部の神経支配)には無効である。術後鎮痛のために広く用いられる。
 局所に浸潤投与した溶液が手術に必要な解剖学的指標を分からなくすることもある。同じ効果のある方法としては閉創時に局麻薬を局所にしみ込ませる(滴下する)。
・局麻薬液量
0.25%プピバカイン(マーカイン)20万分の1アドレナリン添加(5μg/o)5oを片側に用いる(1o/sを越えないこと)。
・手技
皮膚消毒後に刺入点を上前腸骨疎の1cm上方1cm内側にとる。
25G針を付けた注射器で下・外側方に腸骨の内側に当たるまで刺入する。
それからゆっくりと注入しながら針を抜いてくる。
再び、鼡径靭帯に向かって下・正中方に刺入する。
この時、外腹斜筋筋膜の穿破を感じ局麻薬を扇状に注入する。

問題点
.小児の不概嫌は痛みによるのか不安・恐怖によるのか・往々にして判定しにくい。.
・麻酔前投薬(主にドルミカム注腸)の作用時間が短く、術直後に興奮する場合が見ぢれ
るので検討の余地がある。
・神経ブロックでは特に年長児では皮膚の無痛覚を嫌がる場合がある。
・仙骨硬膜外ブロックでは高濃度になると運動麻痘・知覚鈍麻と尿閉が問題になる場合があるので、低濃度を用いる(0.5%キシロカイン、1o/s)。
.坐薬の使用は術前に厭ないと手術終塒では効果がでるまでは時間腰するの叶分な鎮痛が達成されないことが考えられる。
→幼小児は点滴・注射に対する恐怖心が強いので、術中に+分輸液して覚醒後速やかだ抜去して帰室させる。..
・術前経口摂取時間の検討(例えば、clear lquid2〜3時間前まで)
・術後早期の経口摂取く例えば、覚醒後1時間)




トピック
BOTOXのSTRESS(顔面痙攣に対するボツリヌストキシン療法)
たなか眼科  院長             田中謙剛 先生

顔面痙攣が消失するビデオを供覧
ポイント ボツリヌス毒素を痙攣部位に局所注射すると約3ヶ月痙攣を防止できる。だだし鼻涙管にいらないように注意。薬剤は講習会を受講しないと手に入らず。現在熊本では3カ所。保険適用だが、薬剤自身が1本10万円とであるので慎重に投与し失敗は許されない。患者さん1人につき1本しか送ってこないので、濃度を変えて筋注する場合には二人の患者さん分を注文し、2つの濃度の薬剤をつくりそれぞれの患者さんに使用している。

(先生が持参された注意書きを掲載)
患者の皆さんへ
一ポトックス注100による治僚について一
あなた(患者さん)がお悩みの病気は「眼瞼痙轡」(がんけんけいれん)と呼ばれる病気です。眼の周囲の筋肉が異常に緊張して起こる病気です。
今回、あなたに使用をおすすめする薬は、ボトックス注100といいます。この薬による治療を受ける際は、以下の点を十分理解して戴き、納得の上で治療を受けて下さい。
あなたがこの薬の使用を断っても、また、使い始めた後で断っても、治療上の不利益を受けることは一切ありません。この治療について、心配なことや、わからないことがありましたら、いっでも遠慮なく申し出て下さい。
1.作用について
・この薬は1ボツリヌス菌という細菌が作り出すA型ボツリヌス毒素の作用を利用します。
・一般にボツリヌス毒素は食中毒の原因として知られています。しかし、この食中毒の場合は、菌が食べ物とともに体に入り、毒素を作ります。この毒素は、腸から吸収され、全身の筋肉が麻摩する症状を起こします。
・研究の結果、この毒素の少量を痙繁している筋肉に直接注射した場合、その筋肉がゆるみ、痙轡がおさまることがわかりました。
・この薬の投与は「眼瞼痙埆の症状を軽くするためであり、1回の注射で効果は通常3〜4ヵ月持続します。
'効果が欠くなると「眼瞼痙埆の症状が再び起こってくるので・この薬は繰り返し投与する必要があります。
・この薬を繰り返し注射した場合、この薬の作用が体の免疫反応によって中和され、効果がうすれてくることがあります。
2.注射を受ける前に確かめて下さい。
以下1ごあてはまる患者さんは必ず医師に申し出て下さい。
・全身性の筋肉の脱力などの病気がある患者さん(例えば、重症筋無力症、ランバート・イートン症候群、筋萎縮性側索硬化症など)では、この薬により病気を悪くすることがありますので使用できません。この薬が筋肉の緊張をゆるめる働きがあるからです。.
・この薬に対するアレルギー又は、他の薬や食物に対するアレルギーはありませんか?
・視力検査は受けましたか?
外国の眼瞼痙箪の患者さんで、この薬による治療中に、因果関係は明らかではありませんが、眼の神経が萎縮し、視力が低下したとの報告がありました。注射を受けるときには、視力検査を受けることが望まれます。
・妊娠又は、妊娠の可能性はありませんか?
・外国において眼瞼痙攣とは異なる病気にこの薬を大量に投与された患者さんで、流産が報告されています。
・授乳中ではありませんか?
母乳への移行については不明です。
・最近、筋肉の緊張をゆるめる働きのある他の注射を受けたことはありませんか?
また、そのような薬を飲んでいませんか?
・最近、次のような注射を受けたり、薬を飲んだことはありませんか?
抗生物質(細菌の発育を抑えたり、殺す作用のある薬)、パーキンソン病の治療薬、精神安定剤
・15歳未満の子供にこの薬を注射した場合の安全性は不明です。
3.注射を受けた後に注意して下さい。
・この薬の注射を受けて、少なくとも2時間くらいは、アナフィラキシー反応など重大な副作用に対応できるように、主治医の診察室からあまり離れないようにして下さい。
・この薬の効果が持続する3〜4ヵ月は副作用の発現に注意をして下さい。
・手術などの赦急処1を受ける4合は、この薬の治療を受けていることを必ず医師に申し出て下さい。
・この薬の投与を受けてから3〜4ヵ月の間に筋肉の緊張をゆるめる他の薬や抗生物(細菌の発育を抑えたり、殺す作用のある藁)、パーキンソン病の治僚薬、神安定剤を飲む場合は、この薬や他の作用を強めることがあります。これらの薬を飲み始める場合は、この薬の治療を受けていることを必ず医師に申し出て下さい。
・これまで活発に体を動かしていなかった場合には、この薬を注射した後、数日間は激しい運動や仕事を避けて下さい。活動は徐々に再開して下さい。
・妊娠する可能性のある女性は投与後2回の月経を経るまでは避妊して下さい。
妊娠に対する安全性が確認されていません。
・男性の場合には精子に対する安全性が確認されていません。この薬を注射してから、少なくとも3ヵ月は避妊をして下さい。
4.副作用について
この薬は異常を起こしている筋肉内に注射されます。
注射後、まぶたが閉じにくくなる、目が乾いたように感じられる、声がかすれる、物が二重に見える、視力が低下する、皮膚に発疹があらわれるなどの副作用が起こることがあります。もし、これらの症状があらわれたり、呼吸が苦しくなる、体に力が入らないなど、なにか具合が悪くなった場合は、すぐに医師に申し出て下さい。
なお、この薬は海外において「眼瞼痙勘以外の治療薬として広く使用され、また、国内においても現在治験中ですが、そのうち、この薬との関連は不明ですが、心筋梗塞等により死亡が報告されています。
5.他の治僚方法について
現在「眼瞼痙量」に行われる治療には、内服薬を飲む治療のほか、手術による治療があります。
主治医はあなたに最も良いと考えられる方法で治療を続けます。わからないことや心配なことは、いつでも相談して下さい。

ボツリヌストキシン療法研究会